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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)4515号 判決

原告 乾節子 外三名

被告 財団法人東京家政学院

一、主  文

被告は各原告に対し(一)被告財団法人東京家政学院の昭和二十一年度より昭和二十四年度迄の財産目録(二)同学院の昭和二十一年度以降の理事会及び評議員会の議事録(三)同学院の昭和二十一年以降の收入及び支出に関する帳簿及びその受取証等証憑書類(金銭支拂に対する受領証、預金通帳、手形小切手発行控帳、工事請負の見積及び契約書を含む)を閲覧せしめ且つ之を謄写することを認容せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

此の判決は原告等に於て金一万円の担保を供する時は仮に執行することができる。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文同旨の判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次の如く主張した。被告たる財団法人東京家政学院(以下被告学院と略称する。)は昭和二年七月二十三日故大江スミ創立に係る、女子教育を主たる目的とする学校財団であるが昭和二十三年一月同人死亡後は被告理事等が創設当時の被告学院の財団法人寄附行爲の不備あるを奇貨として僅々数名の同族が理事、監事としてその役員の主要なる部分を独占し同窓会、父兄会、教職員並びに在校生徒より多額の寄附金学校債等の援助を仰ぎながら之等の金員を秘密裡に一部横領し或は不正に使用する等のことが存するので、同窓会、父兄会、教職員等の有志は之が的確なる証拠を得て被告学院改善の根本策を樹てんとしたけれども被告理事等はその学院の経理関係帳簿その他の之に関する資料を全然開示せず、その内容を知らんとして之が開示を迫るや即座に拒否する状態であるので止むなく、被告学院の前評議員宮崎鎮子、同堀志津の両名は東京地方裁判所昭和二十五年(ワ)第二三二六号書類帳簿等請求訴訟を以て本件訴訟と同一なる被告占有の書類帳簿等の閲覧謄写を求める爲の請求を爲すや、被告理事はその事件の繋属中突然右両名を昭和二十五年五月二十六日附で解任した。然して昭和二十五年六月八日附を以て原告等を被告学院の評議員に選任し、原告等はその選任通知を同月十日に受け取りこれを受諾し現に被告学院の評議員であるが、原告等も亦前述の如き理由から学校経営の内容を知る必要があり、被告の占有している主文記載の書類帳簿等の閲覧謄写を爲さんとするものであるが、前述の如く被告はその経営内容を秘して之等帳簿等の開示を拒絶する状態であるので本訴で之が閲覧及び謄写を求めるものである。そして原告評議員が被告に対し右の如き書類帳簿等の閲覧謄写の請求する根拠は次の通りである。

被告学院の運営は民法の規定、被告学院寄附行爲の規定及び昭和二十五年三月十五日より施行された私立学校法に準拠して爲さるべきものである。然して評議員たる原告等は被告学院寄附行爲第十八條に基き評議員会を組織して理事及び監事を選任し、又理事会の諮問に應ずる権利義務を有し、法人と理事との関係は民法の委任の規定に依り律すべきものなるところ、評議員会は理事の選任権を有するから從つて又之が解任権をも有するものである。又評議員は右寄附行爲第二十四條に基き寄附行爲変更の同意権も有するから從つて当然之に対し反対権も有している。前掲私立学校法によれば、同法第三十條第一項第六号には寄附行爲中に評議員会及び評議員に関する規定を定むべきことを命じ、同法第三十七條には監事は学校法人の財産状況又は理事の業務執行の状況に付き監査した結果不正の点のあることを発見した時は評議員会に報告すること、その報告をする爲に必要がある時は理事長に対して評議員会の招集を請求することができることを定め、同法第四十二條には予算借入金及び重要な資産の処分に関する事項、收益を目的とする事業に関する重要な事項で寄附行爲を以て定めるもの、その他学校法人の業務に関する重要事項で寄附行爲を以て定めるもの等については理事長は予め評議員会の意見を聞かなければならぬことが定められ、同法第四十六條には決算は毎会計年度終了後二ケ月以内に理事長に於て評議員会に報告しその意見を求めなければならない旨定め、同法第四十七條には学校法人は毎会計年度終了後二ケ月以内に財産目録貸借対照表及び收支計算書を作り常に之を各事務所に備置かなければならない旨定められている。以上を綜合すれば評議員会は被告学院の諮問機関に止まるものではなく審議機関、意思補充機関、監督機関、決議機関たるの性質機能権限を有するのであつてその職務権限は極めて重大であると共に、その構成員である原告等評議員がその議事機関としての重大なる職務権限を有するものであり、評議員がその職務権限を誠実適正に行う爲には評議員各個人に於て常時学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の業務執行の状況に付て之を調査し研究してその現況を認識することが絶対に必要であり亦之を知るの権利を有するものである。然してこれが爲には最善の手段として主文記載の被告学院の書類帳簿を閲覧する必要があり、その目的を達成する爲には当然又謄写することを必要とすると共に、原告評議員等は被告に対し被告占有の前記書類帳簿等の閲覧謄写を請求する権利を有するものである。然して又民法第五十一條及び私立学校法第四十七條は財産目録等備置の義務を学校法人に課しており、それは特定権限ある関係者に閲覧を許す爲のものであり、前述の如き職務権限を有する原告等評議員がその閲覧謄写権を有することは明かであるよつて本件書類の閲覧及び謄写を求めるため本訴請求に及んだと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告等の主張事実中被告学院が昭和二年七月大江スミにより創立せられた女子教育を目的とする学校財団たること、原告等が被告学院の評議員たること、被告学院の運営が民法の規定被告学院の寄附行爲の規定に準拠して爲さるべきものであること、並びに原告等の主張のような條項が被告学院の寄附行爲中に規定されていること及本件書類を被告が占有していることはいずれも認めるがその余の事実は否認する。然し乍ら原告等評議員は次のような理由で本件書類の閲覧謄写権はないのであると述べた。

即ち民法、明治三十二年八月三日勅令第三五九号私立学校令、昭和十一年十一月五日文部省令第十九号により改正された明治三十二年八月十六日「文部大臣の主管に属する法人の設立及監督に関する規程」等には評議員各個人に財団法人の書類帳簿の閲覧権を認めた明文の規定なく、之を認容するような趣旨の規定もない、寧ろ財団法人の行爲即ち之が代表者たる理事の活動に対する監督的役割を果す機関としては監事があり(民法第五十九條、本学院寄附行爲第十七條)更に文部大臣が主務官廳として監督に当つて居るものであり、(前掲文部省令)、財団法人の運営は一切を理事に一任し、之を監事並びに主務官廳をして監督せしめるのが法律の立前であり、評議員会は(從つて原告たる評議員は)理事の選任及び解任以外には何等の権限も與えられて居らず、その地位は常設的であるが、その権限は臨時的なる機関に過ぎない。從て現実に評議員会に於て特定の理事又は監事の選任解任が議題とされている場合には或は財団の運営に関し説明を要求する権利を有し得ようが何等特定の議題もないに拘らず評議員たる地位を有するが故に随時財産目録議事録等の閲覧権ありとの解釈は誤つている。然して被告学院はその寄附行爲に基く運営に当つて從来評議員各個人に対し書類帳簿の閲覧権を與えたことなく、又被告学院の寄附行爲は主務官廳たる文部大臣の監督下に前掲私立学校令及び文部省令に則り作成され運営せられて居るのであるが、右主務官廳たる文部大臣に於て被告学院の如き財団法人の評議員各個人に対し書類帳簿の閲覧権を認めた事例は無い。

次に原告等は民法第五十一條及び私立学校法第四十七條の財産目録等備付に関する規定を根拠として原告等の請求を理由ずけんとしているが、私立学校法は昭和二十五年三月十五日に施行せられたるも、同法に則る組織変更は昭和二十六年三月十五日迄に爲せば足り(同法附則第二項)被告学院は未だ其の組織変更を了して居らないのであるから同法が直ちに適用せられないばかりでなく、同法は評議員会に幾多の権限を認めては居るが(第四十二條以下)之を構成する評議員各個人に対し書類帳簿の閲覧権を認めていない。然して民法第五十一條又は私立学校法第四十七條は法人に対し書類帳簿の備付義務を規定しているに過ぎないので本條から直ちに評議員各個人にその閲覧権ありとすることはできない。即ち利害関係のより切実な商事会社に付いてすら株主の帳簿閲覧権は商法第二百六十三條第二項第二百八十二條第二項の明文を俟つて始めて認められる所であり、右法條の各第一項の書類備付義務の規定のみより右の閲覧権は当然には認められていない。又合資会社の有限責任社員に付いてすら商法第百五十三條の明文より且つその閲覧権は時間的にも閲覧の対象についても可成りに制限されて居り右制限を越えて閲覧する爲には同法第二項により特に裁判所の許可を要するものとされておる。又合名会社合資会社の無限責任社員に付いても民法第六百七十三條商法第六十八條第百四十七條の明文があるので始めてその閲覧権が認められているのである。民法第五十一條又は私立学校法第四十七條が書類の備付義務を規定しているのは法人の監事及び主務官廳の閲覧檢査に供せんが爲に外ならない。監事に付いては民法第五十九條私立学校法第三十七條第四項主務官廳に付いては民法第六十七條私立学校法第五十九條第三項の明文があるのと照應するのである。從つて評議員各個人に対し書類帳簿の閲覧権なき事明白である。然して原告は「收入及び支出に関する帳簿及び其の証憑書類」に至る迄の閲覧謄写を求めているが、利害関係の切実なる商事会社についてすら株主の閲覧権は定款、総会の議事録、株主名簿、社債原簿(商法第二百六十三條)財産目録、貸借対照表、営業報告書、損益計算書、準備的及び利益又は利息の配当に関する議案(商法第二百八十一條同第二百八十二條)に限られ合資会社の有限責任社員については同様商法第百五十三條の制限が存するのであつて右と対比するも原告の請求は行き過ぎと言わねばならぬと共に、閲覧と謄写とは権利行使の態度に於いて著しく異るもので、閲覧権あればその故に直ちに謄写権ありとは解し得ない。以上の理由で原告の本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>

三、理  由

被告たる財団法人東京家政学院(以下被告学院と略称する)は昭和二年七月二十三日故大江スミによつて設立され、女子教育を主目的とする学校財団であり、原告等はいずれも昭和二十五年六月七日付被告学院理事会の選任決議にもとずき被告学院の評議員に選任され現にその任にある者であることは当事者間に爭がない。然して原告等評議員は被告学院の代表者たる理事等に経理上不正行爲ありとして被告学院に対し主文記載の書類帳簿等の開示を求めた所拒絶されたので本訴に於て右書類帳簿等の閲覧謄写を求めるというのであるが、右の如き書類帳簿等を被告が現に占有していることは被告の認めるところであるからこれら被告の占有する書類帳簿等につき原告等評議員に之が閲覧謄写請求権ありやにつき判断することゝする。そこで先づ被告学院の組織運営が如何なる法令に基いて規律されているかを見るに、昭和二十五年三月十五日施行の私立学校法によれば、その第三條に、この法律において「学校法人」とは私立学校の設置を目的として、この法律の定めるところにより設立される法人というと規定されており、且つ訴状添附の本学院の登記簿謄本及び弁論の全趣旨により認められる所によれば被告学院は未だ右私立学校法に基く学校法人への組織変更がなされていないと共に、同法附則第二項によれば、この法律施行の際現に民法による財団法人で私立学校(学校教育法第九十八條の規定により存続する私立学校を含む)を設置しているものはこの法律施行の日から一年内にその組織を変更して学校法人となることができるとあり、結局現在の被告学院の組織運営等については直接には未だ本法の適用なしと言わざるを得ず、被告学院は結局その寄附行爲及び財団法人の原則規定たる民法の外、学校教育法、明治三十二年八月三日勅令第三五九号私立学校令及び昭和十一年十一月五目文部省令第十九号により全面改正された明治三十二年八月十六日の「文部大臣の主管に属する法人の設立及監督に関する規程」等により規律せらるべきものである。そして被告学院の寄附行爲によれば、その第十八條第十二條第二項に評議員は評議員会を組織して理事、監事を選任しかつ理事会の諮問に應ずる旨、同第二十四條に寄附行爲の変更には評議員会の同意を必要とする旨各規定されているので、評議員会は被告学院の諮問機関であり場合によつては議決機関であり必置の機関であることは明らかであるけれども、之を構成する評議員各自の権限については明示の規定なく、又財団法人についての原則規定たる民法及前掲の諸法令にも評議員又は評議員会という機関につき何らの明文の規定が存在しない。然らば被告学院の評議員に原告等主張の如き書類帳簿等の閲覧謄写請求権があるかどうかについては、前掲民法その他被告学院の組織運営を規律すべき前記諸法令を参酌しつつ、被告学院右寄附行爲の諸規定の趣旨を合理的に解釈して之を決定しなければならない。ところで被告学院の寄附行爲第十八條第二十一條によれば評議員会は評議員を以て組織し、その意思決定は出席評議員の過半数の決議により爲されるいわゆる合議制機関であることは明かである。そして一般にかような合議制機関が正当な決議をする爲には、これに参劃する構成員各自が正当な意見を表示することがその前提條件であることはいうまでもなく、しかもその爲には構成員各自が議案の審議に必要な範囲において事実を調査し所要の証拠資料を蒐集する機会が與えられねばならぬことは疑のないことである。

そこで被告学院においては、前掲寄附行爲の規定によつて評議員会は理事監事を選任する権限、寄附行爲の変更に同意する権限、及び理事会の諮問に應ずる権限を有するのであるから、評議員会がこれらの事項につき正当に決議するためには、その構成員たる評議員各自が被告学院の財産及び收支の状況、理事監事の業務執行の内容等につき常にその実情を認識することが必要であり、從つて評議員各自はその実情を認識するには事実を調査し所要の証拠資料を蒐集することはその前提として必要であつて、評議員各自が本件書類帳簿等を閲覧し謄写することは前記実情認識の手段として認められねばならぬものと解するのが相当と謂わねばならない。從つて原告等は各自評議員として随時本件書類帳簿等を閲覧謄写する権限を有するものと謂ふべきである。若し評議員に右書類帳簿等の閲覧謄写の権限がないとすれば、評議員会の構成員たる評議員は被告学院の実情を認識する手段をうるに由なく、かくては評議員会の決議の正当性は到底期待出來ないからである。

被告は之に対し、被告学院の寄附行爲には勿論のこと民法其の他の法令についても評議員各自に本件書類帳簿等の閲覧謄写権を認めた明文の規定なく、又その寄附行爲の規定によつて認められた権限は評議員会のそれであつて評議員各自に属するものではなく從つて評議員各自にかゝる権利なしと謂うけれども、評議員各自の本件書類帳簿等の閲覧謄写権は、前に認定したように、評議員各自を以つて組織する評議員会が寄附行爲所定の権限を正当に行使するための手段として当然に認められねばならぬものであつて明文の規定をまつまでもなく、又評議員会と評議員とは異るものであることは被告の所論の通りであるとしても、そのため評議員各自に前記権限なしといふ根拠にならないことは叙上説示により明らかであるから、この点に関する被告の右主張は理由がない。

又被告は、被告学院の監査機関として監事があり財産の状況及理事の業務執行の状況等の監査は監事が之を行う唯一の機関であるから、評議員各自に本件書類帳簿特に経理関係のそれの閲覧謄写権なしと主張するけれども、監事が被告主張のやうな権限を有することは被告のいう通りであるとしても、監事と別個の機関である評議員会を構成する評議員各自に前認定の権限を認めることの支障とならないことは上來説明したところで明らかであるから、右主張も理由がない。被告は、商事会社等に於ける書類帳簿等の閲覧謄写権に関する規定をあげ、原告等評議員に書類帳簿等の閲覧謄写の請求権がない旨及び仮に閲覧権あるにしても閲覧を請求する書類の範囲が右と比較して廣きに失する旨主張しているが、商事会社等と被告学院の如き財団法人とはその機能に於て全々異るのであつて各々独立の立場に立つて考えなければならぬ事柄であると共に、原告等評議員が本件書類帳簿等の閲覧謄写の権限を有するのは前叙説明したような理由に基づくものであつて必ずしも明文の規定をまつまでもないことであり、そして「收入及支出に関する帳簿及びその証憑書類」もまた他の書類帳簿と相まつて被告学院の財産状態及び理事監事の業務執行の内容等被告学院の経営の実体を認識するに必要な資料と認められるのであるから、これを特に除外する理由もないものと謂わねばならない。又本件書類帳簿等の閲覧権がある以上謄写権は当然之を有するものと謂うべきを以つて、この点に関する被告の主張も亦採用するに由ないものと謂わねばならない。

よつて、被告学院に備付けてある主文記載の書類帳簿等の閲覧謄写を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言については同法第百九十六條を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 花淵精一)

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